20話 始まる夜
今まで関わろうとしても拒絶されるの繰り返しだった和田は、自分の正体を告げた事により、仕事中も側にいたい衝動に駆られた。しかし周囲の目がある。急に距離感が近くなると、違和感を感じる人が増えていくかもしれない。「待てよ……」 薫とこれからの事をじっくり話して、設定を作り込むのはどうだろうかと考え始めた。多少の時間は必要になるけど、何度もアタックした和田に薫が折れた状況を作るのがいいのかもしれない。本当の姿は見せないように、気をつければいいし、二人がお泊まりをした噂も都合よく流れている。「ふふん」 唾をつけて仕舞えば、薫に変な虫はつかないと考えた伊月は、和田としての行動を取りつつ、心の中で軽やかなスキップをした。「おはよう」 伊月の妄想に水を差したのは天田だった。この姿で話すのは面接の時以来だった。和田の正体を知らない天田は、仕事上の顔でたわいも無い会話を続けている。「面接の時以来だね、最近はどう?」 薫にちょっかいをかけるようになった和田が気になって仕方がない様子。伊月は知っている薫と関わる社員には必ず、声をかけている事を。いくら昔から知っている間柄と言っても、人間関係まで踏み込むは違うと感じている。「お久しぶりですね、うまくいってます」 彼の言葉には二つの意味が隠れている。仕事の事と薫との事だ。少し含みがある表現をしたから、もしかしたら勘付かれたのかもしれない。少し眉毛がぴくりと反応をした。その様子を見て、薫に関わる事をよく思っていないと確証を得る事が出来たんだ。「そうなんだ、最近、君の噂を聞いてね。プライベートな事に踏み込むつもりはないんだけど、自粛してくれないかな」 変な重圧を感じる。余程、仲良くして欲しくないと見える。見えない火花が二人の視線の間を行き交いながら、時間が止まったように流れていく。プライベートに踏み込むつもりはないと言いながら、完全に踏み込んでいる。「……考えておきます」 拒否も受け入れもせず、中途半端な状態をわざ